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無痛分娩のメリット・デメリットとは?リスクや赤ちゃんへの影響も詳しく解説

医療法人みらいグループ
無痛分娩のメリット・デメリット|リスクや赤ちゃんへの影響も解説

近年、分娩方法のひとつとして無痛分娩を希望するママも増えています。一方で「無痛分娩って本当に痛みを感じないの?」「赤ちゃんに何か影響はない?」など、デメリットを気にする声も少なくありません。
そこで、今回は無痛分娩のメリット・デメリットを詳しく紹介します。合わせて、赤ちゃんへの影響や無痛分娩が向いている人・向いていない人の特徴も紹介しているので、無痛分娩を検討している方はぜひ参考にしてみてください。

無痛分娩とは

無痛分娩は、分娩時に麻酔処置を行うことで出産の際の痛みを和らげる分娩方法です。一般的には、意識がある状態で下半身を中心に麻酔をかける「硬膜外麻酔」を用いることが多く、出産の際には意識のある状態を保てます。
赤ちゃんが産道を通る際の痛みや会陰の痛みを感じにくくすることで、さまざまなメリットが期待できるでしょう。一方で、分娩時に麻酔を使用するデメリットもあるため、メリット・デメリットをよく理解した上で選択することが大切です。

無痛分娩のメリット

赤ちゃんを抱っこするお母さん
無痛分娩のメリットとして、痛みの緩和による体力の温存が挙げられます。痛みが緩和されることで、産後も十分に体力が残り回復が早くなります。
産後すぐに始まる赤ちゃんとの生活を考えると、体力を温存し、回復も早いのは全てのママにとって嬉しいことでしょう。近年は、上の子のお世話が必要な経産婦のママも、産後の回復が早いというメリットを重視して無痛分娩を選択することが増えました。
ただし、回復が早いといっても産後約6~8週までを指す産褥期はなるべく無理をせずに過ごすことが推奨されます。無痛分娩を選択して早く回復したからといって無理をしてしまうと、後からトラブルが起こるケースもあるでしょう。産褥期は家族の手助けや行政のサービス・有料サービスを利用しながら、産後の体をゆっくりと回復させることが大切です。

また、痛みに弱い人の場合、無痛分娩を選択しているというだけで「痛みが強くなったら麻酔をしてもらえる」という安心感が生まれます。初産で想像もつかない陣痛の痛みに不安を感じてしまうママや、初産の際の痛みを思い出して不安が強まってしまう経産婦のママなど、多くの人が安心感を得るために無痛分娩を選択しています。

その他、万が一出産の際に問題が発生して緊急帝王切開などに切り替わった場合、無麻酔の状態よりも早く手術を開始できるというメリットもあるでしょう。すでに、麻酔をかけるための点滴が挿入されラインが確保されているため、麻酔量を調整すれば外科手術に切り替えることができます。赤ちゃんやママの命がかかる状況で、少しでも早く救命措置をとれるのは大きなメリットです。

無痛分娩のデメリット

パートナーと相談する妊婦
無痛分娩はメリットが注目されがちですが、起こりうるデメリットを理解しておくことも大切です。無痛分娩のデメリットを体感するママは、全体のなかでも多くはありません。
しかし、デメリットが自分自身に起これば、1/100の確率も100/100の確率と変わらないものです。自分自身や家族とデメリットを充分に話し合ったうえで、検討するのがよいでしょう。

続いては、無痛分娩のデメリットについて詳しく紹介します。

異変に気づきにくいことがある

麻酔によって痛覚が麻痺していることで、自分自身の異変に気づきにくくなることがあります。
通常なら異常な痛みなどを感じてママの体や赤ちゃんに起こっている異変を察知するケースでも、痛みを感じないことで気付くのが遅れてしまうこともあります。

分娩が長引くことがある

陣痛時に麻酔をかけることで、陣痛が遠のいてしまったり、娩出時に下半身に力が入らず上手にいきめなかったりすることがあります。その結果、分娩にかかる時間が長引いてしまう可能性もあるでしょう。
分娩が長引けば長引くほど、赤ちゃんは体力を消耗してしまうため、場合によっては鉗子分娩や吸引分娩などの産科的処置が必要となるケースもあります。赤ちゃんやママの体調や、お産の進み具合によっては帝王切開に切り替えることもあるでしょう。

痛みが完全になくなる保証はない

無痛分娩の場合、あまりにも早い段階で麻酔処置をしてしまうと陣痛が弱まってしまうことがあります。そのため、ある程度陣痛がついてそのまま出産まで進むと判断したタイミングで麻酔処置を開始することが多いです。陣痛が始まってから分娩までの全ての時間が無痛になる訳ではありません。
また、体質によっては麻酔が効きにくいなどの理由で麻酔処置をしても上手く痛みが軽減されないケースや、麻酔医がすぐに到着しなかった場合に痛みが充分緩和されないまま出産を迎えるケースもあります。

麻酔による副作用や合併症リスクがある

体の調子が悪そうな女性
麻酔処置を行うことで、以下の副作用が起こる場合があります。

  • 頭痛
  • 血圧の低下
  • 嘔吐
  • 発熱

また、発生する確率は極めて低いものの、以下の合併症リスクも挙げられます。

  • 神経障害
  • 細菌による感染症
  • 局所麻酔中毒
  • 排尿障害
  • 血種

頭痛

無痛分娩によって頭痛が発生することがありますが、多くの場合1~2週間で自然に改善されます。激しい頭痛ではなく、軽い偏頭痛のような痛みを訴える人が多い傾向にあります。

血圧の低下

麻酔の投与開始直後に血圧が低下することがあります。血圧の低下に関してはさまざまな理由がありますが、無痛分娩の際の硬膜外麻酔では、麻酔薬によって交感神経が遮断されることが原因と考えられます。この場合、適切な処置によって対応が可能です。

嘔吐

硬膜外麻酔によって血圧が低下した際に、吐き気を感じることがあります。血圧低下の処置を施すことで改善されるケースが多いです。

発熱

ごく稀に硬膜外麻酔を行うことで38度以上の発熱を起こすことがあります。詳しい原因は判明していないものの、分娩が終わると自然と解熱することが多いです。全ての産婦のうち20%程にみられる副作用であるという報告もあります。

神経障害

無痛分娩後に足の痺れや麻痺した感覚が残ることがありますが、原因の多くは分娩中に赤ちゃんの頭が神経を圧迫することで起こるものと考えらえています。分娩後、数週間から数カ月で自然に治ることが多いです。

細菌による感染症

麻酔処置を行う際に細菌感染を起こす可能性があります。発生率は0.0002~0.0015%と非常に低い割合ですが、細菌性髄膜炎などの重篤な病気を発症する可能性があります。

局所麻酔中毒

麻酔処置を行う際に、誤って血管内に麻酔を投与してしまった場合、局所麻酔中毒を引き起こす可能性があります。局所麻酔中毒は、けいれんや呼吸停止などの重大な副作用が起こる症状です。

排尿障害

無痛分娩によって分娩時間が長時間になってしまった場合、排尿障害を起こすことがあります。これは、赤ちゃんによって膀胱や周辺の神経が長時間圧迫されたことが原因と考えられ、数日で改善することが多いです。

血種

硬膜外麻酔のチューブを挿入した際に硬膜外腔と呼ばれる部分に血種ができることがあります。これを「硬膜外血腫」と呼び、下半身に重篤な麻痺を残すことがあります。発生件数は45万例当たり25例と低いですが、血液の凝固機能に問題があるケースで発症するリスクが高く、事前に血液検査でリスク要因の有無を調べることが重要視されています。

費用がかかる

帝王切開などの医療的処置を必要とする場合を除き、基本的に分娩費用は自費負担です。さらに、無痛分娩を選択する際は、通常の分娩費用よりも高額の医療費が必要なケースが多い傾向にあります。
費用は病院によって異なりますが、一般的に普通分娩よりも3~15万円ほど高くなることが多いようです。
無痛分娩は自然に陣痛が始まる前に入院して陣痛を誘発させる計画分娩を行うケースが多く、入院費なども普通分娩より割高になることが多いです。その他、麻酔の効きが悪かった場合は麻酔量を増やすことや、麻酔に関する処置を深夜などに行うと深夜料金が加算されることもあるでしょう。
なかには、出産費用の合計が100万円を超えるケースもあり、事前に費用面での説明を十分に受けておくことが必要です。

無痛分娩に対応している病院が少ない

無痛分娩は主に医療設備の整った病院で行われることが多く、麻酔医なども必要となるため過疎地域では対応している病院がないことも珍しくありません。
また、無痛分娩に対応している病院が見つかったとしても自宅から遠く、出産まで定期的に通う妊婦検診の通院が大変になるという声もあります。

無痛分娩を選択した人の割合

今回は、特に詳しく無痛分娩のデメリットを紹介していますが、風邪薬ひとつにもメリット・デメリットは存在しますし、医療においてデメリットの存在しない施術は少ないでしょう。
実際に、イギリス王室のキャサリン妃が無痛分娩を選択し、産後7時間で退院したニュースは世界中に報道されています。海外では無痛分娩のメリットが大きく取り上げられ、年々無痛分娩を選ぶ人の割合が増えています。
一方、無痛分娩関係学会・団体連絡協議会の報告によると、日本で2020年9月の1カ月間に実施された無痛分娩は全69,913件の分娩のうち6,008件で割合は8.6%でした。
海外では約7割以上が無痛分娩を選択するとも言われているため、日本は極端に無痛分娩の割合が低いと言えるでしょう。そこには、「痛みを感じないと愛情が湧かない」などの根拠のない考え方や、実際に出産するママ以外の家族がデメリットを重視して無痛分娩に反対する現状などが原因として存在します。
※出典:無痛分娩関係学会・団体連絡協議会

無痛分娩の死亡リスク

無痛分娩に反対する人に多く聞かれる意見として挙げられるのが「過去に、無痛分娩を選択して死亡した例があるから」というものです。
実際に、全国で2~3年に1件程度の割合で無痛分娩の際の麻酔によって母親が死亡してしまうケースがあると言われています。
しかし、これらの医療事故の多くは、人的ミスによって発生しています。病気の治療などに行われている手術などでも同様に起こり得る医療事故だと言ってもよいのではないでしょうか。

その他、無痛分娩による死亡例の原因を調べたところ、原因のほとんどは羊水塞栓症や子宮破裂、産道裂傷、感染症など、無痛分娩を選択しなくても起こりうる要因が挙げられていました。これらの結果を見ると、無痛分娩だから死亡リスクがあるという認識は誇大表現と言えるのではないでしょうか。

そもそも、どのような分娩方法を選択したとしても、リスクが存在していることを改めて理解することが大切です。そのうえで、医療従事者は母子の命を守り、幸せな出産をサポートするために日々勤めています。

無痛分娩は赤ちゃんにとっていいの?悪いの?

無痛分娩後進国とも言える日本では、「無痛分娩を選ぶと赤ちゃんが発達障害になる」など、根拠のないデマが拡散されることも度々あります。
しかし、赤ちゃんへの影響も無痛分娩を検討するうえで重要な要因であると言えるでしょう。

現代の産科医療では、無痛分娩が赤ちゃんに悪影響を与えることは極めて稀だと考えています。麻酔が効いていても陣痛はつき、トラブルのない限り普通分娩と変わらず進みます。
一方で、途中で陣痛が弱まってしまい分娩が長引くと赤ちゃんの体力が消耗し、帝王切開・吸引分娩・鉗子分娩などの医療的処置が必要となるケースはあるでしょう。麻酔によって陣痛が弱くなる可能性も否定できないため、分娩の長時間化は赤ちゃんへの良くない影響と言えなくもありません。
しかし、陣痛が弱まってしまうのは、無痛分娩を選択していない妊婦であっても起こりうるため、必ずしも無痛分娩を選択したことが原因とは言えないでしょう。

無痛分娩が向いている人もいる

無痛分娩にはデメリットやリスクもありますが、持病や体質によっては無痛分娩を選択肢として持つ方がよいと考えられる人もいます。
特に、パニック障害などの心理的な持病を持っている方は、無痛分娩を選択することで安心感を得られるメリットが非常に大きいです。
その他、前回の陣痛がトラウマになって出産に強い恐怖心を感じている方や痛みに弱く出産前から恐怖心によって生活に支障が出ている人など、「出産のお守り」として無痛分娩の選択肢を持つ方がよい人もいるでしょう。
また、妊娠高血圧症の人の場合、自然分娩で血圧が上がり過ぎてしまいママや赤ちゃんの状態が急激に悪化してしまうリスクがあります。強い痛みや恐怖心は血圧を上げやすく、重篤な妊娠高血圧症候群の妊婦には、事前に緊急帝王切開についての説明がされることも珍しくありません。このようなケースでは、無痛分娩を選択することで痛みを和らげ、血圧の上昇を防ぎ分娩にかかるリスクを軽減することにも繋がります。

無痛分娩が向かない人の特徴

基本的には、以下の方は無痛分娩を選択できない可能性があります。

  • 脊髄疾患を患っている方
  • 血液疾患を患っている方
  • 背中にアトピーなどの皮膚疾患がある方
  • ヘルニア手術・腰椎骨折などの経験がある方
  • 麻酔薬にアレルギーのある方

既往歴を正しく医師に伝えて相談してみてください。また、肥満の方の場合も場合によっては無痛分娩の処置が難しいケースがあります。

まとめ

今回は、無痛分娩のメリットやデメリットについて詳しく紹介してきました。無痛分娩は世界で支持を増やしている分娩方法のひとつです。一方で、麻酔を使用することの医療的なリスクについては十分に理解したうえで検討する必要があるでしょう。

出産に最も必要なのは、母子ともに健康な状態で終えることです。そのために何が必要なのかをご家族やパートナーとよく話し合って検討してみてください。

当院の無痛分娩について

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この記事の監修
木野産婦人科医院 院長 木野 秀郷
木野 秀郷
木野産婦人科医院 院長
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