ホーム > コラム > 妊娠・出産 > 無痛分娩が選ばれた割合は?日本と海外の普及率についても解説

無痛分娩が選ばれた割合は?日本と海外の普及率についても解説

医療法人みらいグループ
無痛分娩が選ばれた割合は?日本と世界の普及率も解説

近年、日本でも徐々に増えて来た無痛分娩ですが、実際に無痛分娩で出産した人が身近にどれ位いるでしょうか?日本は、他の先進国に比べると無痛分娩の割合が非常に低いという調査結果がでています。
この記事では、無痛分娩を選択した人の割合や推移、海外での普及率、日本で普及が進まない理由なども解説していきます。無痛分娩を検討している方はぜひ参考にしてみてください。

無痛分娩について

無痛分娩とは、出産の際に麻酔薬を用いて痛みを和らげながら行う経腟分娩を指します。
無痛分娩の際には、一般的に硬膜外麻酔を用いて下半身を中心に部分的な麻酔をかけます。そのため、意識を保って出産を行えるので娩出の際には、産声を聞けたり、産後すぐにカンガルーケアを行ったりできるのが特徴です。
痛みの和らぐ程度は個人差があるものの、麻酔を用いて痛みを和らげることで、出産による心身の負担を和らげることができると言われています。

無痛分娩の歴史

世界で初めて無痛分娩が行われたのは1850年頃と言われています。1853年にはイギリス王室のヴィクトリア女王が無痛分娩で出産したことが報じられ、一気に知名度を広げることとなりました。
一方、日本の産科医学会で初めて無痛分娩に関する医師向けの研究会が行われたのは1960年です。それまでも、「無痛分娩」という言葉が使われることがありましたが、催眠術であったり、呼吸法、鎮静剤など、世界の無痛分娩とは異なるものが多かったと記録されています。
世界で主流とされている硬膜外麻酔を用いた無痛分娩が行われるようになったのは1970年以降と言われており、諸外国に比べて大きく遅れをとる形で無痛分娩の普及が徐々に始まりました。

日本における無痛分娩による出産の割合

日本産婦人科学会が発表した資料によると、日本における無痛分娩の普及率は以下のとおりです。

2018~2023年の6年間の総分娩数 5,134,072件
上記のうち無痛分娩による分娩数 372,553件
6年間の総分娩数に占める無痛分娩の割合 7.3%

6年間の総分娩数のうち、無痛分娩の割合は7.3%と1割を下回っています。

続いては、年次ごとの無痛分娩による出産の割合をみていきましょう。
総分娩数に占める無痛分娩数の割合の年次推移

総分娩数に占める無痛分娩の割合(全体)
2018年 2019年 2020年
5.2% 5.0% 5.9%
2021年 2022年 2023年
7.1% 9.6% 11.6%

年々、無痛分娩の割合は増加傾向にあり、年次別にみると2023年には1割を超えています。ただし、出生率は減少傾向にあるため、無痛分娩の件数でみれば大幅に増加しているとは言い難いのが現状です。

2018年 2019年 2020年
分娩件数 939,072 912.764 863,324
無痛分娩の割合 5.2% 5.0% 5.9%
無痛分娩の件数 48,832 45,638 50,936
2021年 2022年 2023年
分娩件数 841,834 809,465 767,613
無痛分娩の割合 7.1% 9.6% 11.6%
無痛分娩の件数 59,770 77,709 89,043

徐々に無痛分娩の割合が増加しているとはいえ、まだまだ少数派だと言えるでしょう。

※出典:日本産婦人科医会|産科施設の立場から~日本産婦人科医会施設情報からの解析~

無痛分娩に対応できる病院の割合

無痛分娩に対応している病院の割合
そもそも、無痛分娩はどの病院や助産院でも対応できる出産方法ではありません。適切な設備や人員が必要であるため、無痛分娩に対応していない病院も多くあります。
日本産婦人科学会が発表した資料によると、2023年度の産科取扱病院および診療所の数は2,013施設なのに対し、無痛分娩を取り扱っている施設は742施設でした。割合で言えば、無痛分娩に対応している病院は全体の約37%です。

また、無痛分娩の割合は地域によっても大きな差が見られます。
2023年に最も無痛分娩の割合が多かったのは東京都、次いで神奈川県、熊本県、千葉県と続きます。反対に、最も無痛分娩の割合が低かったのは岩手県と高知県です。福井県、沖縄県、鳥取県なども全国的に見た場合、無痛分娩の割合が少ない傾向にあります。これは、過疎地帯であることに加え、無痛分娩に対応できる病院が少ないことも要因のひとつとして考えられるでしょう。

※出典:日本産婦人科医会|産科施設の立場から~日本産婦人科医会施設情報からの解析~

海外における無痛分娩による出産の割合

海外の無痛分娩の普及率
海外では、すでに無痛分娩が標準的な出産方法となっている国が多々あります。特に、先進国では無痛分娩の普及が進んでおり、アメリカでは7割以上の出産で無痛分娩が選択されているという調査結果もあります。特に無痛分娩を選択する割合が高いのがヨーロッパ諸国です。フランスでは約8割、フィンランドでは約9割の妊婦が無痛分娩を選択していると言われています。

※出典:日本産科麻酔学会 無痛分娩Q&A

海外では昔から無痛分娩が受け入れられていた?

日本では、無痛分娩をメリットデメリットだけでなく、「出産は痛みを伴うもの」「医療の介入なくできるものなのだからわざわざ麻酔を用いる必要はない」と拒絶する考え方が根強く残っています。もちろん、諸外国でも無痛分娩の施術が確立された当時は同じような議論が起こり、現状の日本と同様に無痛分娩を選択する割合が非常に微々たる件数だった時代もあります。このような反発に対して、海外では医療の進化とともに合理性の理解を広めることや無痛分娩を選択しやすい風潮を作り上げてきました。
例えば、アメリカでは国民全体の平均的なBMI値が高いことから帝王切開を必要とする出産件数が多い傾向にあります。このような場合、無痛分娩によって自然分娩を進めていれば、途中で帝王切開へ切り替える際に麻酔処置の施術がスムーズに行えるメリットがあるでしょう。帝王切開による分娩件数の多いアメリカでは、無痛分娩を選択することこそが合理的であるという考えもあります。
また、スウェーデンやフィンランドでは、医師が無痛分娩を推奨していることも無痛分娩の普及率を増加させる要因となっています。妊婦が「医師が推奨している出産方法だから」という理由で無痛分娩を選択しやすい環境とも言えるでしょう。国によっては、無痛分娩を保険適用としているなど、世界各国で「安全に痛みを和らげる出産」を選択できる環境を作るための取り組みが行われています。

そもそも海外の医療体制は無痛分娩に適している

無痛分娩を行うためには、設備や人員などの環境要因も求められます。海外において出産とは「大きな病院で行うもの」という認識があります。
日本のような個人病院は少なく、大規模な医療センターで出産を行うのが一般的です。そのため、麻酔科医や麻酔を行うための設備、病床などは十分に確保されており、無痛分娩の導入が簡易的であったことも、無痛分娩の普及に大きな影響を与えています。
個人病院で出産するケースが多い日本では、麻酔科医の確保や無痛分娩を行うための人員の確保ができる環境は限られており、無痛分娩に対応するためには病院側がある程度の投資をする必要があります。
しかし、投資をしても妊婦が無痛分娩を選択しなければ採算はとれず、結果として無痛分娩に対応できる病院が増えにくいという悪循環が起きてしまっているのです。
徐々に無痛分娩を選ぶ割合が増えていき、東京都では無痛分娩の費用助成についても活発に議論が行われています。こういった取り組みが全国に広がっていくことで、日本でも無痛分娩に対応できる病院が増え、諸外国のように無痛分娩を選択しやすい環境が作られていく可能性があるでしょう。

世界と日本で無痛分娩の普及率に差がある理由

海外と日本では、無痛分娩の普及率に大きな差があることが分かりました。その理由は、日本人の考え方や環境によるものが大部分を占めています。

続いて、世界と日本で無痛分娩の普及率に差がある理由を紹介していきます。

リスクが取り沙汰されているから

無痛分娩に否定的な人から聞かれる意見に「医療事故が怖いから」「母子の命をかけてまで痛みを和らげないといけないのか」というものが見られます。
しかし、無痛分娩による産科麻酔が原因で妊婦の死亡事故が起こる割合は数年に1例と言われています。もちろん、その1例に当たってしまえば、患者や家族にとって大変な悲劇となることも理解できます。リスクを少しでも避けたいと思う気持ちは当然のことと言えるでしょう。
一方、2023年度の人口動態統計によると、2023年に妊娠、分娩および産じょくが原因で亡くなった人の数は26人という結果がでています。これらの調査結果から、無痛分娩だけが突出してリスクの高いものではないということを理解して頂けるのではないでしょうか。自然分娩を選択したとしても、これらのリスクは必ず発生することから、リスクを前提に無痛分娩を否定する人の多くは「医療事故が多いイメージ」だけで判断している傾向にあると予想されます。こういった場合、現実的な数値や割合などを把握していないケースが少なくありません。

※出典:厚生労働省|令和5年(2023)人口動態統計(確定数)の概況

痛みを感じないと愛情が芽生えないと思い込んでいるから

撫でられている赤ちゃん
無痛分娩に否定的な理由として、特に年配の方から聞かれるのが「お産は痛みを感じてこそ。痛みを乗り越えてこそ母性が芽生える」という意見です。これらの意見は帝王切開に否定的な人に多く聞かれ、日本人の「我慢することが美徳」という考え方が如実に表れていると言ってもよいでしょう。
しかし、諸外国ではいち早くこれらの考え方から抜け出し、女性が安心して出産できる環境を整えています。実際に、無痛分娩や帝王切開で出産したとしても、心情面で経腟分娩をした産婦と何らかの違いが現れるというエビデンス(根拠)はありません。
無痛分娩を選択している女性のなかには、「穏やかな気持ちで赤ちゃんをこの世に迎えたいから」といった意見や「産後の赤ちゃんのお世話をするために体力を温存したいから」といった意見も聞かれます。赤ちゃんを大切に思うこの気持ちを、母性や愛情以外の言葉で表すのは難しいでしょう。

保険適用外で多額の費用がかかるから

日本では、妊娠や出産は病気ではないという理由で、妊娠・出産に関する医療費のほとんどは自己負担とされています。費用面を補助するために、手当金や検診のクーポンを交付するなど、妊婦やその家族の負担を軽減する取り組みがされているものの、十分とは言い難いでしょう。
無痛分娩では、通常の出産費用に加えて10~20万円前後の費用が必要です。無痛分娩にかかる費用は一般家庭の場合、大きな負担となってのしかかってくるでしょう。費用面の問題で無痛分娩を選択しにくいという声も多く聞かれます。

無痛分娩の普及している諸外国の多くは、無痛分娩を保険適用し金銭的に大きな負担を受けることなく選択できる環境が整っています。金銭面の課題は無痛分娩の普及に大きな影響を及ぼしているのが現状です。

日本政府は2026年から正常分娩(自然分娩)の保険適用や無償化などの政策を検討しています。また、東京都では無痛分娩に対する助成も検討しているなど、費用面の負担を軽減する取り組みに注目が集まっています。

無痛分娩に対応できる病院が少ないから

日本では、そもそも無痛分娩に対応できる病院が少ないため、費用面の問題をクリアし、周囲の理解を得ていても無痛分娩を選択できないという人も多くいます。
無痛分娩に対応できる病院は都市部に集中していることが多く、過疎地域では自然分娩でさえ遠方の病院や診療所を頼らなければならないというケースもあるでしょう。
無痛分娩に必要な設備を用意できないことや、麻酔科医不足など、さまざまな理由があります。特に、出生率の減少傾向にある日本では産科自体が減りつつあります。

まとめ

今回は無痛分娩の割合や海外で無痛分娩が普及している理由、日本で無痛分娩の割合が低い理由などを紹介してきました。
無痛分娩ならではのリスク要因がある限り、手放しに薦めることはできません。しかし、痛みを和らげることで、女性が出産に前向きになり産後の心身の負担を抑えることができるなら、選択肢のひとつとして持つことが望ましいでしょう。
無痛分娩についてリスクやメリットを理解し、自分自身の気持ちや家族と相談して選択することが大切です。出産を控えている妊婦さんやご家族は、無痛分娩がどのようなものなのか、どれ位選ばれているのか、どのようなメリット・デメリットがあるのかを調べてみてください。
出産は、ママやパパと赤ちゃんの生活が始まる記念すべき日です。だからこそ、自分達にはどのようなスタートが必要なのか考えてみてはいかがでしょうか。

当院の無痛分娩について

Web診療受付はこちら

コラム一覧に戻る
この記事の監修
木野産婦人科医院 院長 木野 秀郷
木野 秀郷
木野産婦人科医院 院長
あなたと家族の”みらい”に向けて、明るい笑顔と真心、そして安心の医療体制で、安らぎと感動を提供いたします。産科・婦人科にかかわる心配事は、程度にかかわらず何でも「木野産婦人科医院」までご相談にいらしてください。