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B群溶血性連鎖球菌(GBS)とは?妊婦がかかると新生児に感染する可能性も!検査・治療方法も解説

医療法人みらいグループ
B群溶血性連鎖球菌とは?新生児へ感染する可能性も

妊娠後期に入るとママはB群溶血性連鎖球菌に対する免疫があるか検査を行います。しかし、多くの人はB群溶血性連鎖球菌について知らず、なかには「何の検査をしているのだろう?」と思っている人もいるのではないでしょうか。
B群溶血性連鎖球菌は健康なママやお腹の中にいる赤ちゃんにとっては、特に問題のない細菌です。しかし、赤ちゃんが生まれる際に産道で感染する可能性があり、免疫を持たない赤ちゃんが発症してしまうと命を脅かされてしまうケースもある恐ろしい細菌と言われています。
今回は、B群溶血性連鎖球菌について詳しく紹介します。大切な赤ちゃんの命を守るためにも、B群溶血性連鎖球菌がどのような細菌なのか知っておきましょう。

B群溶血性連鎖球菌(GBS)とは

B群溶血性連鎖球菌(GBS)とは、人間の体内にごく普通に存在している常在菌の一種です。非常に弱い細菌であるうえ、一般的な成人女性の3割は保菌者であるという報告もあります。また、保菌者であってもほとんどの場合、抗体を獲得しているため免疫機能によって発症を抑えられ無症状であることが多いでしょう。
しかし、まれに抗体を持たない人がいたり、免疫機能が非常に弱い人がいたりします。こういった人々が感染、発症してしまうとさまざまな病気を併発させてしまうことがあります。

女性の場合、膀胱、腟、肛門、直腸などの粘膜に常在しているため、妊婦がB群溶血性連鎖球菌に感染していると経腟分娩の際に産道で赤ちゃんに感染してしまう可能性があります。
抗体を持っている妊婦からは胎児に抗体が移行されるため、ほとんどの赤ちゃんにとってB群溶血性連鎖球菌は大きな害のない細菌です。
しかし、抗体を持たない母親から生まれる赤ちゃんや、上手く抗体が移行しなかった赤ちゃんなどはB群溶血性連鎖球菌に感染、発症してしまう可能性があり、生後間もない赤ちゃんにとっては命すら脅かされてしまう危険な細菌です。

新生児GBS感染症とは

新生児GBS感染症とは、出産の際に母親の産道で赤ちゃんにB群溶血性連鎖球菌が感染し発症する感染症です。検査によって母親にB群溶血性連鎖球菌の陽性判定が出ても、実際に新生児GBS感染症が発症する確率は、全出産のうちの1%前後だといわれています。
大抵の場合、母親がB群溶血性連鎖球菌を保菌していると、胎児の99%は抗体を獲得するため産道で細菌に感染しても新生児GBS症候群を発症することはありません。しかし、まれに母親が抗体を持っていなかったり、抗体を獲得できないまま出産を迎えてしまったりするケースがあります。この場合、新生児GBS症候群を発症すると重篤な合併症を引き起こしてしまう可能性が高いです。
新生児GBS症候群は死亡率が非常に高く、回復しても重篤な後遺症が残るケースが多く報告されています。

また、新生児GBS症候群は発症のタイミングによって早発型と遅発型に分けられるのが特徴です。

早発型新生児GBS症候群

早発型GBS症候群とは、生後1週間未満で発症する新生児GBS症候群のことをいいます。新生児GBS症候群の約8割は早発型であると言われており、出産直後から呼吸障害を確認されるケースが非常に多いです。
生後6~12時間という非常に短い時間で容態が急変し敗血症などを引き起こすケースも多く報告されています。
敗血症の他に、脳髄膜炎、骨髄炎、敗血性関節炎を引き起こすケースも多く、これらの合併症が発症した場合には回復後も重篤な後遺症が残る可能性が高いです。特に脳髄膜炎や骨髄炎などを発症した場合、視覚や聴覚に後遺症が現れる可能性がある他、脳性麻痺などが残ったケースも過去に報告されています。

遅発型新生児GBS症候群

遅発型新生児GBS症候群とは、生後1週間以上3カ月頃までに感染、発症するGBS感染症のことを言います。遅発型新生児GBS症候群の場合、経腟分娩による垂直感染の他、人や物から感染する水平感染によるものもあり、感染経路は多岐に渉るのが特徴です。B群溶血性連鎖球菌の保菌者からの接触感染や細菌が付着した哺乳瓶などから媒介物感染を起こすこともあります。

新生児に限らず、乳児のうちは容態が急激に悪化することが珍しくありません。早発型と同じく、呼吸困難や敗血症の他、脳髄膜炎、骨髄炎など重篤な合併症を引き起こす可能性もあるでしょう。遅発型の場合、発熱の症状が多くみられる傾向にあります。
また、遅発型の場合は中耳炎、結膜炎、副鼻腔炎、関節炎、蜂窩織炎を発症した例も報告されています。

遅発型新生児GBS感染症の感染経路

哺乳瓶を消毒している様子
早発型新生児GBS症候群とは異なり、遅発型新生児GBS症候群にはさまざまな感染経路が疑われます。
赤ちゃんをお世話する際に保菌者の手指から感染してしまう場合や、哺乳瓶などに細菌が付着した状態で使用してしまう場合など、さまざまなケースがあるでしょう。
また、可能性のひとつとして研究が進んでいるのが母乳による感染です。2022年に発表された論文(※)では、母乳がB群溶血性連鎖球菌に汚染される可能性を踏まえ遅発型新生児GBS症候群の感染経路となっているのではないかという指摘がされています。

赤ちゃんのお世話をする際には、手指や哺乳瓶などの消毒をしっかりと行うことはもちろん、母親自身がB群溶血性連鎖球菌の保持者なのであれば、治療しておくことも大切です。

※文献:松原 康策,芝田 明和:小児期B 群レンサ球菌感染症の現状と残された課題,小児感染免疫 34 (3):219─235,2022

B群溶血性連鎖球菌の検査方法

日本産婦人科医会は、すべての妊婦に対するGBSスクリーニング検査の実施を推奨しています。GBS検査は、公費負担によって受けられる検査のひとつで、一般的に妊娠後期にあたる妊娠35~37週に行われることが多いです。検査は腟から体液を採取、培養してB群溶血性連鎖球菌を保菌しているのか診断します。

B群溶血性連鎖球菌は、健康な成人や胎児にとって大きな害を与える細菌ではありません。妊娠中に早期治療をしても出産時に再発しているケースが非常に多いため、妊娠初期や中期に感染が発覚しても経過を観察するケースが多いでしょう。妊娠中期で陰性判定が出ても、後期になると陽性判定がでるケースなどが多い事から、出産直前となる妊娠後期に検査を行うのが一般的です。

当院では妊娠35~36週のタイミングの妊婦健診にて、検査を実施しております。当院の妊婦健診の詳細は、以下のリンクからご確認いただけます。
当院の妊婦健診について

B群溶血性連鎖球菌の対処方法

母親がB群溶血性連鎖球菌の保菌者であると判明した場合、分娩時に母親へ抗生物質を投与することで新生児への感染および発症を防ぎます。
B群溶血性連鎖球菌は常在菌であるため新生児であっても、感染したからといって必ず発症するものではありません。B群溶血性連鎖球菌を保菌している母親に娩出された新生児の半分以上はB群溶血性連鎖球菌への感染が確認されます。しかし、そのなかでも新生児GBS症候群を発症するのは1%前後であると報告されています。
しかし、発症した際の死亡率が非常に高いため、分娩時の抗生物質投与による予防が推奨されています。

B群溶血性連鎖球菌の治療方法

B群溶血性連鎖球菌は抗生物質の服用で治療が可能です。処方された抗生物質をしっかり服用しきることで完治させることができるでしょう。しかし、B群溶血性連鎖球菌は再感染率の高い細菌です。微弱な常在菌であるため、健康な成人にとっては感染していてもほとんど発症することはなく、感染に気付かない人が多くを占めます。

しかし、妊娠後期にB群溶血性連鎖球菌が検出された人は、新生児のお世話の際に十分注意する必要があるでしょう。
分娩中の抗菌薬投与によって経腟分娩の際の産道感染を防いだとしても、その後新生児のお世話をするなかで手指や哺乳瓶などさまざまな経路から赤ちゃんがB群溶血性連鎖球菌を取り込んでしまい、遅発性新生児GBS症候群を発症する可能性があります。新生児に触れる際には、手指消毒や哺乳瓶等の消毒等を徹底されるよう指導されるケースが多いですが、妊娠後期にB群溶血性連鎖球菌が検出された場合は特に衛生管理の徹底が求められます。
これらのケースでは、母親に限らず父親や共に育児をする家族など全員に「赤ちゃんに触れる際には手指を清潔にする」「赤ちゃんの使用するものは殺菌をする」という衛生面に関する意識を徹底して共有することが大切です。

まとめ

健康な成人にとっては、問題のないB群溶血性連鎖球菌ですが、新生児が感染、発症してしまうと重大な合併症を引き起こしてしまう可能性があります。発症確率としては非常に低いものの、発症した際の死亡率が極めて高いのも新生児GBS症候群の恐ろしい特徴です。
赤ちゃんをB群溶血性連鎖球菌から守るためにも、妊娠中からB群溶血性連鎖球菌について知っておくことが大切です。
また、出産後も赤ちゃんがB群溶血性連鎖球菌に感染する可能性がある事を忘れてはいけません。幸いにも出産時に感染しなかったとしても、抗体を持っていなければ日常生活のさまざまなシーンで感染のリスクがあります。
B群溶血性連鎖球菌は、その恐ろしさや感染経路を知っておく事で感染確率が大幅に下がる感染症とも言われています。母親に限らず赤ちゃんに関わる全ての人が衛生管理を徹底することが大切です。

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この記事の監修
木野産婦人科医院 院長 木野 秀郷
木野 秀郷
木野産婦人科医院 院長
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