生理日(月経日)はホルモン剤によってコントロールすることができます。
どうしても外せないイベントと生理の日程が重なってしまったときには、無理をせずにピルの使用も視野に入れてみてください。
月経移動とは
月経移動とは、ホルモン剤(ピル)を用いて生理の日にちを希望の日にちにずらすことをいいます。結婚式や大切な試験・スポーツの大会、旅行やライブなど、大切なイベントが生理とぶつかりそうなことがあらかじめわかっている場合に、イベントと生理がぶつからないように調整することができます。
月経移動には、以下の2種類の方法があります。
- イベントの前に来るように、予定より生理を早める方法
- イベントの後に来るように、予定より生理を遅らせる方法
使用するホルモン剤について
月経移動の際に用いる薬は、女性ホルモン剤(ピル)です。ピルというと避妊や生理痛の治療に用いるイメージがありますが、短期間だけ用いることで、生理を都合の良い日に移動させることができます。
使用するピルの種類は、生理を早めるか遅らせるかによって、また持病や身体の状態などによって異なります。ピルの内服中は、排卵が来ないので生理も止まります。ピルの内服を止めると、2〜3日で消退出血(普段よりも少し軽い生理)が起こります。この消退出血は、平均5日程度でおさまります。
当院では、月経移動の際に使用するホルモン剤は、プラノバールを処方します。
- プラノバール(中用量ピル:エスロトゲンとプロゲステロン)
診察の際には、薬の詳しい飲み方や注意点などもあわせてご説明いたします。ご不安な点やわからない点などがありましたら、診察時に遠慮なくお聞きください。
生理を早めたい場合
生理を予定日より早めたい場合は、早めたい生理の一つ前の生理が始まった時点(遅くとも生理5日目まで)から低用量ピルを飲み始めます。最低でも10日間以上はピルを飲み続ける必要があります。
その後、本来の生理予定日(イベントのある日)の10日前くらいにピルの内服を中止すると、その2〜3日後くらいに消退出血(普段よりも軽い生理)が来ます。前回の生理から数えると、およそ2週間あまりでもう一度軽めの生理が来ることとなります。
この次の生理は、本来の周期通りの時期(28日周期の方はおよそ28日後)にきます。
低用量ピルで生理を早める場合の具体例
次の生理予定日が4月15日であり、これを4月7日から開始するよう早めたい場合の例です。
生理周期が28日周期の場合は、一つ前の生理は3月18日頃に始まるはずです。
この生理の期間中(生理5日目:3月22日まで)に低用量ピルの内服を始めます。4月5日で低用量ピルの内服を止めると、4月7日頃に消退出血が起こり、12日頃に終了する予定です。
中用量ピルで生理を早める場合の具体例
次の生理予定日が4月20日であり、これを4月12日から開始するよう早めたい場合の例です。
前の生理とは関係なく、4月1日までに中用量ピルの内服を開始します。4月10日で中用量ピルの内服を止めると、4月12日頃に消退出血が起こり、17日頃に終了する予定です。
生理を早める方法のメリット・デメリット
生理を早める方法の1番のメリットは、ずらしたい生理の予定日、つまり大切なイベントがある期間にピルを内服する必要がない点です。生理を遅らせる場合はイベント中もピルの内服が必要となるため、ピルの副作用が強く出る方の場合、せっかく生理をずらしたのにピルの副反応でイベントに集中できなかったということが起こる可能性があります。
ただし生理を早めようと思って前回の月経直後から内服を開始し終了したのに、月経が7日以上待っても来ない場合があります。その場合はイベントにかかってしまうケースもあります。月経移動の方法は医師とよく相談してください。
生理を遅らせたい場合
生理を予定日より遅らせたい場合は、ずらしたい生理開始予定日の5日前位から中用量ピルを飲み始めます。ピルを飲んでいる間は、予定日になっても生理は起こりません。ピルを飲むのをやめると2〜3日で消退出血(軽めの生理)が見られます。どこまで生理を遅らせることができるかですが、最大でも本来の予定日の7〜10日後くらいまでです。それ以上飲み続けていても、数日以内に生理がきます。
生理を遅らせる場合、イベント中(本来生理が来ているはずの期間)はピルを内服し続ける必要があります。遅くとも、生理予定日の1週間前には受診するようにしましょう。
また、生理を遅らせる方法の場合、排卵日以降にピルの内服を始めることになるので、妊娠の可能性がある場合には内服できません。
中用量ピルで生理を遅らせる場合の具体例
次の生理予定日が4月15日であり、これを4月20日頃から開始するよう遅らせたい場合は、4月10日までに中用量ピルの内服を開始します。4月18日でピルの内服を止めると、4月20日頃に消退出血が起こり、25日頃に終了する予定です。
4月10日から中用量ピルを飲み始めた場合、生理を引き延ばせる限度は、本来の予定日から10日後の4月25日くらいまでです。この期間を過ぎると、中用量ピルを飲み続けていても生理が来ます。副作用のリスクが高いので、4月25日以降は飲むのを中止しましょう。
生理を遅らせる方法のメリット
イベント期間中も正しく服用すれば、ほぼ確実に生理を避けることができます。
また、予定が急に決まった場合にも対応可能です。生理予定日の1週間前までに受診していただければ対応可能です。
月経移動の副作用について
生理をずらすこと自体には、特に大きな問題はありません。もともとの生理周期が順調でありきちんと排卵があれば、ピルの内服を止めると数日で消退出血が起こります。次の生理も、もともとの生理周期と同じ間隔で起こります。
生理を早める方法も遅らせる方法も、ピル全般に見られる吐き気や頭痛といった軽い副作用が発現する可能性があります。また、非常にまれですが血栓症を起こす可能性もゼロではありません。
血栓症(深部静脈血栓症)
深部静脈血栓症とは、主にふくらはぎにある深部静脈に血栓(血液の塊)ができ、静脈が詰まってしまう病気です。飛行機などで長時間同じ姿勢で座っていると起こりやすいため、エコノミークラス症候群とも呼ばれています。
静脈が詰まると足の血液が心臓まで戻れなくなり、ふくらはぎのむくみや痛みなどの症状が出ます。これを放置すると、詰まった血の塊が静脈を経由して心臓まで流れます。最終的に血栓が肺の血管まで飛ぶと、肺の血管が詰まって命に関わる状態になることがあります(肺梗塞)。
ピルを飲んでいる期間に次のような症状が出てきたら、すぐに内服を中止し、当院までご相談ください。旅行中などで当院にご相談が難しい場合は、最寄りの婦人科や循環器内科、緊急外来などを受診するようお願いいたします。
- ふくらはぎの痛み、むくみ、しびれ感(ふくらはぎの症状は片側に起こることが多い)
- 鈍い胸の痛み、突然の息切れ
- 胸部の押しつぶされるような痛み
- 激しい頭痛、めまい、失神
- 視覚・言語障害(視野狭窄、舌のもつれなど)
血栓症になりやすい状況として、以下のものが挙げられます。
- 長時間同じ姿勢で体を動かせない状態が続く
- 水分不足で脱水の傾向がある
- ストレスや疲労が溜まっている
長時間の移動の際は定期的に立ち上がったり、足の運動をするよう心がけましょう。また『トイレに行くから』と水分を控えがちになる方も多いですが、これは非常に危険な行為です。旅行中も、水分をしっかり摂ることを心がけましょう。疲れた時にはすぐに休憩を取りましょう。
また、以下のような方は血栓症になりやすいことがわかっています。そのほかに持病がある場合など、状態によってはピルの処方をお断りする場合があります。
- 40代以上の方
- BMI30以上の肥満体型の方
- たばこを吸う方
ピルを処方できないケース
当院では、血栓症などの危険性を考慮し、以下に当てはまる項目がある方にはピルの処方を行っておりません。
- 35歳以上で、1日15本以上タバコを吸う人
- 前兆のある頭痛がある人
- 高血圧・高脂血症の方
- 乳がん・子宮頚がん・子宮体がんに罹っている方
そのほか、症状やもともとお持ちの持病などによって、ピルを飲まない方が良い方、注意して服用する必要がある方もおられます。詳しくは、クリニックまでお問い合わせください。
ピル処方時の確認項目
当院を受診していただく時には、以下の3点を必ずお聞きします。これらの項目は、処方するホルモン剤の選択に重要な項目となっています。
- 最後に生理が始まった日
- 次回の生理の開始予定日
- 生理をずらしたい日取り(予定のある日)
上記の情報を元に、最も適切なホルモン剤を決定し、内服のスケジュールを立てていきます。
このほかにも、ホルモン剤を使用するうえで不安なことや疑問点などあれば教えてください。年齢や体型、病気、喫煙者かどうかなども処方の内容にかかわってきますので、不安な方は早めにご相談ください。
生理は女性にとっては大切なものですが、生理の時には下腹部痛などでパフォーマンスが落ちるのも確かです。どうしても外せない大切なイベントと生理の日程が重なってしまったときには、我慢せずに生理をずらすことを検討してくださいね。