緊急避妊薬(アフターピル)は、避妊をしなかった、もしくは避妊はしたけれども失敗してしまった時に、今すぐの妊娠を希望していない場合の緊急措置として行う避妊方法です。
緊急避妊薬(アフターピル)とは
緊急避妊薬(EC:emergency contraception)とは、避妊をしなかった、もしくは避妊に失敗してしまった時に、その性行為が行われた72時間以内に服用する薬です。アフターピル、またはモーニングアフターピルとも呼ばれています。
アフターピルの避妊効果は、正しく内服した場合、90%前後とされています。
アフターピルの種類
アフターピルにはいくつかの種類がありますが、当院ではレボノルゲストレルの処方のみ行っております。
レボノルゲストレルは、高用量黄体ホルモンの単剤です。性行為の後72時間以内に服用します。【ノルレボ®錠1.5mg】もしくは 【レボノルゲストレル錠1.5mg「F」®】の2製剤が発売されています。
アフターピルの価格
当院では、レボノルゲストレルを処方しております。保険適用外のため医療費は全額自己負担(自由診療)となり、1回16,500円(税込)です。
アフターピルの飲み方
アフターピルは、性行為後72時間以内(可能であればできるだけ早く)内服します。性行為後24時間以内に内服できると95%以上妊娠を阻止できると言われています。
72時間以内に内服した場合の妊娠阻止率は85%前後です。72時間を超えると全く効果がなくなるというわけではありませんが、時間が経過すると、妊娠阻止率は低くなります。できれば24時間以内に内服しましょう。
アフターピル内服後は、妊娠が成立しなかったこと、また子宮外妊娠などを含む異常妊娠がないことを確認するために、3週間前後で一度産婦人科の外来を受診しましょう。性暴力やコンドームの破損などの場合は性感染症の可能性もあるため、感染症の検査や子宮膣部・頸部細胞診を行います。
低用量ピルの飲み忘れの場合
低用量ピルを飲み忘れたことでアフターピルが必要となった方は、アフターピルを飲んだ後、12時間以内に低用量ピルを飲みましょう。この場合、消退出血はいつもより遅れる可能性があります。
アフターピルの効果
アフターピルは妊娠を防ぐ高い効果がありますが、100%妊娠を防げるわけではありません。国内での市販後調査の結果、妊娠阻止率は90.8%でした。つまり、アフターピルを飲んでも、10人に1人は妊娠する可能性があるということです。
アフターピルを飲んだ後は、80%以上の方が次の生理予定日の前または2日後以内に生理があります。次の生理予定日の後7日以内に生理がくる確率は95%あまりです。
逆にいうと、この時期までに生理が来ない場合、また生理がきてもいつもより極端に軽い場合は妊娠している可能性があるので、産婦人科を受診しましょう。
アフターピルの作用機序
レボノルゲストレルは、2つの作用で妊娠を阻止するとされています。
- 排卵を抑える、もしくは排卵を遅らせる:排卵がなければ精子が来ても受精しないので、妊娠が成立しません。
- 子宮内膜の増殖を抑制:受精卵が着床しにくい状況を作ります。
このうち、①の効果の方がメインであるとされています。国内での市販後調査で妊娠を阻止できなかった4例のうち、3例は排卵日が近かったケースでした。
アフターピルの副作用
アフターピルの副作用には、多い順に以下のようなものがあります。市販後調査によると、全体で7.96%の方に副作用が見られました。
- 悪心(2.25%)
- 乳房障害(圧痛など)(2.08%)
- 頭痛(1.38%)
- 不正性器出血(1.21%)
- 傾眠(1.04%)
- 下腹部痛(0.96%)
このうち、内服後2時間以内に吐いてしまった方については、薬が吸収されていない可能性が高いので、直ちに1錠追加して内服する必要があります。
また、アフターピルを飲んだ後は、半数近くの方に月経周期の乱れが見られます。数ヶ月で落ち着くことが多いので、大きな心配はいりません。
アフターピル服用対象者
アフターピルは、避妊したいと思う人全員が飲めるというわけではありません。飲むべき人と、飲んではいけない人がいます。特に持病があって飲み薬を飲んでいる方、市販のサプリメントを飲んでいる方は、下の項目に気を付けましょう。
アフターピルを飲むべき人
アフターピルを飲むべき人は、以下に当てはまる人です。
- 妊娠を希望しないのに、避妊しないで性行為を行った
- 経口避妊薬(OC; Oral contraceptives;低用量ピル)の飲み忘れ
- 下痢や肝酵素誘導薬(セント・ジョーンズ・ワートなど)を飲んだことなどによる吸収障害
- 性暴力を受けた
- 膣外射精
- コンドームを含む避妊具の破損・脱落・不適切な装着
- アクシデントはなかったが、妊娠していないか不安な場合
アフターピルを飲んではいけない人
アフターピルを飲んではいけない人(禁忌)は、以下の通りです。
- アフターピルの成分に対して過敏症(アレルギー)を起こしたことがある人
- 重い肝障害のある人
またアフターピルは妊娠を阻止する薬ですので、当然ながら妊娠を希望する人や妊婦さんは適応になりません。ただし、妊娠している女性がアフターピルを飲んでしまったとしても、妊娠の継続に問題はないことがわかっています。
アフターピルを飲む際に副作用などが出やすいため、飲むかどうかを慎重に判断すべき人(慎重投与)は、以下の通りとなっています。条件に当てはまる方は、処方を受ける際に医師にご相談ください。
- 軽い〜中等度の肝障害がある人(肝臓に負担がかかるため、病気が悪くなる可能性があります。)
- 心臓や腎臓に病気がある・またはあった人(ナトリウムまたは体液の貯留により、病気が悪くなる可能性があります。)
- 重度の消化管障害又は消化管の吸収不良症候群のある人(薬が吸収できない恐れがあります。)
- 授乳中の方(アフターピルの成分は乳汁中に移行します。)
アフターピルを使う際に気をつけたいポイント
アフターピルは希望しない妊娠を防ぐために有効な薬ですが、万能というわけではありません。アフターピルを使用するときに気をつけたいことについて簡単にまとめました。
正しく使用しないと避妊効果が得られない
アフターピルは、性行為後72時間以内に内服しないと、説明通りの避妊効果が得られません。早く飲めば、それだけ妊娠阻止率が上がるとされています。24時間以内に内服できた場合の妊娠阻止率は95%と非常に高いです。できるだけ早く受診し、処方箋をもらいましょう。
アフターピルを飲んだ後の性行為には避妊効果がない
アフターピルは、あくまでも予期せぬ性行為や避妊の失敗の際に用いるものです。『アフターピルを飲んだ後に性行為をすれば妊娠しないだろう』というのは誤りで、飲んだ後に性行為をすると普通に妊娠しますのでお気をつけください。
次の月経が来るまで性行為を控える
アフターピルを飲んだ後は、次の生理が来るのを確認するまで性行為を控えましょう。アフターピルを飲んだ後は薬の働きにより排卵が遅れている可能性があり、次の生理の前に性行為が行われると妊娠する危険が高くなるのです。
次の月経までの間にもう一度アフターピルを使用する場合
次の月経が来るまでの間にもう一度アフターピルを使用すると、月経周期が乱れる可能性が高いです。アフターピルを飲んだ後、12時間以内に再び緊急避妊が必要となった場合は、もう1錠追加で飲む必要はありません。残念ながらすでに妊娠が成立していた場合は、2回目の服用で流産することはありません。
アフターピルは、あくまで『緊急用』の避妊薬である
アフターピルは、低用量ピルなどの経口避妊薬や他の避妊法などのように、日常的・計画的に避妊するためのものではありません。避妊もせず無計画に性行為を行い、アフターピルを何度も使用するということは、身体的にも経済的にも大きな負担がかかります。アフターピルは日常的に使うものではなく、あくまでも、緊急避難的に使用するものだということを忘れないでください。
性感染症は予防できない
コンドームなど男性が装着する避妊具には、避妊の効果の他に性感染症を予防する効果もあります。当然アフターピルでは性感染症は予防できませんので、性行為の際にはコンドームを装着することをご検討ください。
早めにご相談を
アフターピルの内服は、早ければ早いほど高い効果が得られます。避妊に失敗した可能性がある場合は迷っている時間がもったいないので、すぐにご相談にいらしてください。
また、パートナーがいて、今すぐの妊娠を希望しない場合には、低用量ピルの服用、もしくはお産を経験されている方で、今後の妊娠希望がない場合や、長期間の避妊を希望されている場合にはIUS(ミレーナ)をおすすめします。
アフターピル以外の避妊相談もお受けしておりますので、お気軽にご相談ください。