性感染症(性病/STD)とは、病原菌を保有する異性との性行為などの接触によって皮膚や性器に感染症を引き起こすことです。もし少しでも疑いがある場合は早めに治療するようにしましょう。
性感染症の現状
性感染症は誰しも感染する可能性のある病気です。日本国内の性感染症で最も患者数が多いのは性器クラミジア感染症です。20代を中心に感染者が多く見られ、自覚症状があまりないことから感染に気づいていない方も多いです。
また、近年は梅毒感染者が増加し、2022年(令和4年)の全国の梅毒報告数は13,220件に及び、1999年に感染症法が改正されて以降最大の件数となっています。
性感染症報告数(令和4年) | 女性 | 男性 |
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性器クラミジア感染症 |
14,558件
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15,578件
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性器ヘルペス |
5,363件
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3,342件
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尖圭コンジローマ |
2,029件
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3,950件
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淋菌感染症 |
2,260件
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7,733件
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梅毒 |
4,519件
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8,701件
|
よくある性感染症
性感染症は、種類によって症状や発症時期に違いがあります。
見た目や症状だけで区別するのは難しいものが多いですが、何か気になる症状があるときには以下を参考にしてください。
性器クラミジア感染症
性器クラミジア感染症は、性感染症のうちで最も感染者数が多いものです。女性の場合、腟から体の内側に向かってクラミジアの感染が広がり、骨盤内炎症性疾患(子宮・卵巣・卵管の感染症)を発症することがあります。
無症状の場合もあるのですが、そのままにしておくと卵管障害(卵管の詰まり)や肝臓の炎症を起こすかもしれません。妊婦の方が感染すると、早産の原因になったり、出産時に新生児に感染したりする可能性もあります。
オーラルセックスによって喉に感染したり、感染者の体液(精液など)が目に入って結膜炎を起こしたりと、デリケートゾーン以外にも症状を起こす点も特徴的です。
性器クラミジアの症状
- おりものの量が増える
- 下腹部痛
- 発熱、風邪のような症状
- 不正出血
性器クラミジアの検査と治療
おりものの検査、採血や内診などを組み合わせて診断します。
治療は、クラミジアに効果のある抗菌薬を1週間程度内服します。
淋菌感染症
淋菌感染症は、以前は『淋病』と呼ばれていたものです。クラミジアと同時に感染していることが多いため、診断までに時間がかかる場合には両方に対して治療をおこないます。
淋菌感染症の症状
- 排尿時の痛み
- おりものの量が増える
淋菌感染症の検査と治療
女性の場合、おりものの検査では淋菌感染症かどうかわかりにくいため、膣の内側を綿棒のようなものでぬぐい、PCR法で淋菌の存在を確認します。クラミジアも同時に検査できるキットを使用することもあります。
治療は、注射で抗菌薬を1回投与して終了です。クラミジア感染症も疑わしい場合は、クラミジアの治療(内服の抗菌薬)も同時におこないます。
尖圭コンジローマ
尖圭コンジローマは、性器の周辺にデキモノがいくつも生じる病気です。あまり自覚症状はないですが、デキモノの場所や大きさによっては痛み・痒みを感じます。
原因は、ヒトパピローマウイルス(HPV)です。HPVは子宮頸がんの原因ウイルスとしてよく知られています。HPVには約180種類の型があり、尖圭コンジローマと子宮頸がんはHPVの型が違います。尖圭コンジローマから子宮頸がんに進展するわけではありませんので、安心してください。
尖圭コンジローマの症状
- 粒状、あるいは鶏のトサカのような形状のデキモノ、イボが複数できる
- おりものの変化は起きにくい
尖圭コンジローマの症状
感染機会の確認と、デキモノの視診で診断可能なことが多いです。場合によっては、デキモノを一部とって、DNAからHPVの型を確認することもあります。
治療は、レーザーや液体窒素などを使って取り除く方法と、軟膏を塗る方法があります。治療は3ヶ月以上と長期間かかることが多いですが、再発しないようしっかりと通院を続けることが大切です。
梅毒
梅毒は、10年ほど前から少しずつ感染者数が増えている病気で、進行が長期間にわたる点が特徴的です。梅毒トレポネーマという菌が原因で、デリケートゾーンだけでなく全身にさまざまな症状をきたします。
梅毒の症状
感染からの期間 | ||
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第1期 |
3週間~6週間
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小豆から親指の先くらいの大きさの、硬いデキモノがデリケートゾーンにいくつも生じる。痛みはない。その後、足の付け根や首のリンパ節が腫れる。 2.3週間で症状が自然に消え、無症状の期間に入る。 |
第2期 |
3か月~
|
顔や体・足の裏などに赤い発疹、盛り上がった発疹(丘疹)ができたり、唇や口の中の炎症が生じたりと多彩な症状が現れる。数週間から数ヶ月程度で症状が消える。 |
第3期 |
3年以上
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硬いしこりや、ゴムのようなデキモノが生じる。今の日本には、第3期まで進行した患者はほとんどいない。 |
第4期 |
10年以上
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神経に問題が起こり、麻痺などの症状が出て日常生活が難しくなる。今の日本には、第4期まで進行した患者はほとんどいない。 |
梅毒の検査と治療
血液検査や診察などで診断します。感染してからすぐの期間は、検査をしても陽性反応が出ないことがあるため、日にちをあけて検査することが大切です。
治療は、ペニシリン系の抗菌薬を注射または内服で使用します。第1期であれば2~4週間で治療が完了しますが、第3期では8~12週間と長くかかってしまいます。最近は、初期の梅毒であれば1回の注射で治療できる新薬が出ています。
性器ヘルペス
性器ヘルペスは、単純ヘルペスウイルスが神経を通って皮膚や粘膜に水ぶくれ(水疱)をたくさん作る病気です。小さな水疱がくっついて大きくなり、痛みを伴う潰瘍になることもあります。初感染の場合は症状が強く、再発では症状が少し軽い点が特徴です。
約80%の方は再発を繰り返すとも言われています。症状が軽くとも他人にうつる可能性はありますので、きちんと治療することが大切です。
また、単純ヘルペスウイルスは、一度感染すると、一生涯、体の神経の中にウイルスが潜伏します。ストレスのかかったとき、風邪をひいたときなどの体が弱っているときに再発しやすいので、生活習慣を乱さないように注意しましょう。
性器ヘルペスの症状
- 水疱、水ぶくれの痛み
- 痛みによる排尿困難
- デリケートゾーンの違和感
- 太ももや足の付け根がビリビリする
性器ヘルペスの検査と治療
診察と、場合によっては血液検査などをおこなって診断します。
抗ウイルス薬を使用すると、治癒までの期間を短くすることが可能です。1週間前後、重症の場合は2週間ほど、飲み薬や点滴で治療します。潜伏しているウイルスには効かないため、再発を抑えるのは難しいです。
HIV感染症
HIV感染症は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による感染症のことで、これによって体の免疫が低下してさまざまな症状・合併症を起こすようになったものをエイズ(後天性免疫不全症候群)と呼びます。
HIV感染症の検査と治療
感染からの期間 | ||
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初感染期 |
2〜6週間
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発熱、リンパ節の腫れ、咽頭炎、筋肉痛、頭痛など風邪のような症状を起こす。体の中のウイルス量が多い時期。 |
無症候期 | 無症状で数年〜数十年経過する。期間は個人差が大きい。他人にうつす可能性がある。 | |
エイズ期 |
数年〜数十年
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ヘルペス感染症、カビによる肺炎などの感染症、リンパ腫など、23種類の病気を発症しやすくなる。食欲低下、下痢、低栄養などを引き起こす。 |
エイズを発症すると、普通なら感染しないような弱い病原菌にも体が負けてしまい、『日和見感染(ひよりみかんせん)』を起こすようになります。
HIV感染症の検査と治療
血液検査でHIVの感染を調べます。
少し前までは有効な治療が少ない状態でしたが、今ではいくつかの抗ウイルス剤を組み合わせた治療を続けることで、エイズの発症を抑えられるようになっています。
性感染症の問診でお伺いする内容
性感染症かもと思って病院へ行った際に『問診でいろいろなことを聞かれて嫌な思いをした・恥ずかしかった』という方がいるかもしれません。
一般的に、問診では以下のようなことをお伺いします。
- 性交渉をしたのはいつか
- パートナーの性別はどちらか
- (過去1年間などの期間での)パートナーの人数
- 職業
- 過去に性感染症にかかったことがあるか
こうした内容は、診断に必要な情報としてお伺いしています。いつ頃、どの部分が他人と接したかなどの情報は、どんな性感染症にかかっているか判断するために必要な情報です。性感染症にかかった方を責めるような意図はありません。
性感染症は、性交渉の経験があれば誰でもかかる可能性があります。実際、クラミジア感染症は年間に1万件以上、尖圭コンジローマや梅毒は2000件以上もの報告があるのです。決して恥ずかしいものではありませんので、少しでも気になる症状があればご相談ください。
性感染症になったら
性感染症にかかってしまった場合に、気を付けてもらいたいことをお伝えします。
早めの対処が大切
『性感染症かも』と思っても、婦人科に行くのがなんとなく恥ずかしく、受診が遅れてしまう方は少なくありません。ですが、性感染症を放置してしまうとさまざまな問題を引き起こします。
例えば、放置することで不妊につながる性感染症がいくつかあります。また、妊娠中に感染すると、母子感染を起こして赤ちゃんに症状が出てしまうことも。また、梅毒のように、感染から時間が経つと治療に時間がかかってしまう感染症もあります。
何かおかしいな、と感じたら、早めにご相談ください。
性感染症の治療で大切なこと
性感染症の治療では、大切なことが3つあります。
- 途中で治療をやめずに最後まで続けること
- パートナーも一緒に治療すること
- 治癒確認をおこなうこと
治療を中断すると、細菌やウイルスが薬の効かないタイプに変化したり、再発して治りにくくなったりといった原因になります。
パートナーも一緒に治療しなくては、お互いに菌やウイルスを移しあうことになり、一向に治療が終わりません。
また、完全に治癒しないうちに性交渉を再開してしまうと、パートナーへの感染や、ご自身の症状の悪化を招いてしまうかもしれません。治癒の確認のために、再受診をお願いすることがあります。
少しでも違和感を感じたら早めの受診を
もしあなたが今、性感染症の疑いのある症状をお持ちでしたら、症状が悪化する前に早めの治療をはじめましょう。お気軽に当クリニックまでご相談にいらしてください。